メルマガ再録「U系イベント・ハードヒットの格闘技術における“地金”と“新技”」(14.03.07)

え〜、ふと思い立って、メールマガジン格闘秘宝館メルマガ』で書いてきた原稿を、これからブログで再録していこうかと思ってます。まずは『ハードヒット』2月大会を見て書いた原稿から。『ハードヒット』最新大会は本日(4.26)新木場で開催です。まあ「今日の今日」になっちゃいましたが、よろしくお願いします。
で、興味を持ってもらえたら、大会に行きつつメルマガを購読してもらえたりすると嬉しいです。メルマガのアドレスはこちらです。
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「U系イベント・ハードヒットの格闘技術における“地金”と“新技”」

 2月28日、ハードヒット新木場1stリング大会の全選手入場式で、プロデューサー兼エースの佐藤光留はこんなことを言っている。
「プロレスラーができて当たり前のレスリング、闘いを見せるために、選手一同がんばります」
 なるほど。佐藤は“プロレスラーはレスリングができて当たり前”と考えているわけだ。
 あらためて説明すると、ハードヒットはロストポイント制を採用した“U系”プロレスイベント。そのリングで使われる技は、おのずと“格闘技の技術”になってくる。
 いくらエンターテインメント化が進んでも、プロレスは“闘って勝ち負けを決める”ことを見せている。だから、僕としては試合のエッセンスとして“格闘技術”が見られると、なんだか嬉しい。たとえば中邑真輔のボマイェにしても、ヒザがヒットする瞬間に軸足の爪先を立て、腰をグッと突き出すところに「おっ」と思ったりする。あれがヒザ蹴りの基本で、フォームの原理としてはロンダ・ラウジーがサラ・マクマンをKOしたヒザと同じなのだ。
 逆に、UWFの登場以降、“プロレス技”として取り入れられた格闘技術が一般化して、ぞんざいに扱われると「なんだかなぁ」という気分になったりもする。いや、あるじゃないですか「それ、足に抱きついてるだけじゃないの?」みたいなヒザ十字とか。
 ハードヒットは中邑真輔的というか、どんな技を使うにしても地金みたいなものが問われるし、見える。以前、参戦した中澤マイケルのように“できないからこそ挑戦してみる”というスタンスもあるし、“あぁ、この人はこんなこともできるんだ”というところが面白く感じる場合もある。
 たとえば、今大会のグラップリング・トーナメントに出場した青木篤志だ。元ノア、現在は全日本プロレスで活躍する青木のベースはレスリング。高校から自衛隊体育学校までガッツリやってきた。その地金は、ハードヒットのグラップリングマッチという舞台だからこそピカピカに輝いた。
 この日、全日本プロレスからはSUSHIも参戦。坂口征夫と対戦している。短時間で敗れはしたものの、差し合いや腕をたぐってバックを取ろうとする動き、相手の足を自分の足で挟む基本通りの片足タックルを見せた。ふだんは出さないけれど、こういう“武器”も持っている。それが分かるのは、やっぱり嬉しい。
 こうした“基本に帰る”部分だけでなく、“先に進める”要素もハードヒットにはある。グラップリング・トーナメントの決勝戦。青木と対戦したのは勝村周一朗だった。元修斗世界王者で、MMAジムの会長で、所英男のセコンドで、D-NETの中核メンバー。そういう選手が、必ずしも格闘技を見慣れているわけではない観客の前で試合をする意味は大きいだろう。
 青木との試合、勝村は体格的な不利もあってか下からの攻撃を多用した。足元に潜り込んでのヒザ十字やアンクルホールド。ロストポイント差で敗れたものの、“いつものプロレス”にはない技術にプロレスファンも沸いていたし、“一瞬でも気を抜いたら青木がやられてしまう”という緊張感が漂った。
 なにしろ、勝村がマットにお尻をつけた状態で青木に近づこうとしただけで「うわっ!」という反応が返ってくるのだ。MMAグラップリングでは珍しくない動きでも、ここでは“不気味な新技”だったということだろう。
 メインイベントはDDT王者・HARASHIMA伊藤崇文の対戦。最後はパイルドライバーにジャーマン、アームロックを強引に持ち上げてのバスターから腕十字と派手な連続攻撃でHARASHIMAが勝ったのだが、バックを取られた状態から綺麗な“スイッチ”で切り返す場面も。
 HARASHIMAのチョークを伊藤がディフェンスした場面も印象深い。伊藤がやったのは、自分の首に巻きついてきた腕を両腕で掴み、肩で担ぐようにする。基本のディフェンスだ。長南亮vsダンホンの最後の攻防を思い出してもらうといいかもしれない。2本の腕で1本の腕を制す。2on1というやつだ。
 で、この基本の動きが、いわゆるショルダー・アームブリーカーにも見えるのだ。“しっかり防御”の場面を“スリーパーをアームブリーカーで返した”ように感じた観客がざわめいた。さらに伊藤は、そこからワキ固めへ。
 勝村にしても伊藤にしても、ふだん練習しているレスリングとMMAの技術を使っただけだ(見せ方、伝え方は意識したと思うが)。でもそれは、プロレスのリング、プロレスファンの前ではかなり新鮮なものだった。これ、なかなか面白い現象だと思うのだ。彼らは“プロレスにおける格闘技術”を更新する役割を担っているのかもしれない。
 何年か経ったら、ハードヒット以外のプロレスでも、スリーパーを2on1でディフェンスし、そこから切り返すのが当たり前になるかもしれないなぁ……などと思ったりもする。“80年代、UWF勢に蹴りを教えたシーザー武志”みたいな存在に、伊藤や勝村がなったりするのか。「あそこからプロレスの寝技が変わったよね」なんて、まあそういう可能性だってあるわけである。
 しかしなんなんだろうか、勝村。D-NETで日本のMMAを活性化し、同時進行でプロレスの“格闘技術”にも影響を与えるかもしれない存在。まさかこんなふうになるとは……。そういうところもまた、ハードヒットの面白さなのだ。


※4.26『ハードヒット』の情報はこちらからどうぞ。
http://www.ddtpro.com/hardhit/9108/