ガンバレ☆プロレスと「ガクセイプロレスラー」

久々にブログ書きます。僕がいま一番ハマってるプロレス団体、ガンバレ☆プロレスについてです。

ガンバレ☆プロレス、略称ガンプロは今年、大家健が旗揚げしたDDT系の団体。この大家というレスラーは、お笑い要員というのかダメ人間というのか、とにかく“うまくいかないところ”を観客に見せてきたわけです。リストラされたり、失踪して名古屋で期間工として暮らしたり。今回も、DDT傘下のユニオンで退団マッチに敗れ、DDT再入団もできず、いっそ自分で団体作ったらどうだという高木三四郎大社長のススメにより旗揚げという流れ。ちなみに旗揚げ資金は1万5000円という史上最安値です。
先日、行なわれた大家の講演会によると(そういうのがあったんです)、それまでの大家は思ったことを口に出せない人間だったそうです。

でも、旗揚げを機に気持ちをそのまま表現するようになった。その一つが、ガンプロのスローガンである「プロレスをメジャースポーツにする」。いきなり大きく出た。ふだん観客100人いないような興行やってるのに。

でも大家いわく「思っちゃったんだから仕方ないじゃないですか」。どインディーだってなんだって、プロレスが好きな思いには変わりがないんだ、と。プロレスが好きでしょうがなくて、プロレスに何度も救われてきて、だから恩返しがしたい。そのために「頑張る」。それがガンバレ☆プロレス

むやみに熱い大家のもとには、ばってん多摩川あらためガンバレ☆玉川(大家命名、漢字間違える)など、DDT公式パンフレットの表現を借りると「くすぶらせたら右に出る者はいない人材」が集まってきます。みんな自分を変えたい。今までとは違う自分になりたくてガンプロに参戦する。

あ、そんなわけでガンプロは単にシリアスなだけの団体ではないです。熱すぎて笑っちゃうこともあるし、ヘソで茶を沸かすような展開も。ちびっ子ファンにアピールするにはパンダだ! と投入された「3代目J-Soulパンディータ」。女子プロレスラーライディーン鋼はガンプロ参戦時のみ「剛力鋼」に改名。出場希望などはmixiのみで受付けなどなど。


そういう要素があるから、暑苦しいほどの熱血にもスッと入っていける。何かっつうと泣き、叫び、抱き合う“カリスマ号泣師”大家に感情移入できる。あげく、勝手に深読みしたりする。

11月の市ヶ谷大会はスタッフがことごとく同日開催のベリーズ工房・武道館ライブに行ってしまい、九段下vs市ヶ谷、ベリ工vsガンプロの「興行戦争」に。ガンプロもベリーズ工房に対抗すべく、大会中にアイドルのライブを実施します。そこで出てきたのが「メトロポリちゃんV(ファイブ)」。えーすいません、知りませんでした。まあ地下アイドル中の地下アイドル、みたいな人でしょうか。でもこのメトロポリちゃんV、愛称メト子ちゃんが大仕事をやってのけるんですね。

試合後にパンディータが乱入し、ケモノの本能なのか暴れまくる。そこに登場したメト子ちゃんが歌ったのが劇場版マクロスの主題歌「愛・おぼえていますか」。歌を聴いたパンディータはおとなしくなり、やがて退散...プロトカルチャー!

いや、基本的に笑っちゃう展開ですよ。そうなんだけども、マクロスっていうのはアイドルが歌の力で闘いを終わらせるわけじゃないですか。こんなにスケールのデカいアイドルの話ってないでしょう。つまりこれ、ガンプロが本気でベリーズ工房に対抗すべく、「アイドルの力」の究極形をぶつけてきたのかなと...考えすぎですかね。

ヘソで茶を沸かしたあげくに熱くなり、あげく泣きそうになることもあるガンプロ。その主要登場人物の一人が今成夢人です。元学生プロレスラーで(リングネームは金的桜ヶ丘)、今はDDTの映像班。ガンプロの天敵である浪口修に襲撃されたのがきっかけで参戦することに。その奮闘ぶりと大家との友情がこの団体の軸と言っていいでしょう。

DDTの煽りVでも才能を発揮している今成。かつて多摩美大の卒業制作で作った映画は様々な映画祭で上映され、賞も獲得しています。

タイトルは「ガクセイプロレスラー」。学生プロレスのドキュメンタリーで、描かれるのは選手たちのリア充から遠く離れた青春です。学生プロレスやってても、まあズバリ言ってモテない。プロレス見て、やって、学生プロレス仲間と酒飲んで。そんな生活にどっぷり浸かってるうちに、主人公のエロワード・ネゲロこと冨永真一郎は単位取得もままならなくなる。しかし大学には学生生活を満喫しつつ、女の子と付き合いつつ、しっかり単位を取れる連中もいるわけで、リア充への憧れと憎しみは募るばかり。でもリングには、そこでしか得ることができない燃焼感が...と、この「ガクセイプロレスラー」は見事な青春映画でした。

そもそも、今成が学生プロレスを題材にしたのは、多摩美でオシャレな面々がオシャレな作品を作ってる中で、自分が勝負できるのはプロレスしかないと考えたから。つまり彼もまた、ネゲロと同じ“ガクセイプロレスラー”だった、と。

監督・今成と主人公・冨永。2人のストーリーはその後も続きます。学生監督として評価を得た今成はテレビ局に就職したものの8ヶ月で退社。今はDDT映像班として腕を振るう生活だけど、まあ正直、給料は高くないし仕事はキツい。気づけば20代後半、周りの同世代は結婚したり子どもができたりしてるらしい。ちゃんとしてんなぁ。金もあるのか。なのに俺は...。

一方、冨永はというと「ガクセイプロレスラー」がきっかけでユニオンに入団。学プロのスターは、即戦力として入団発表記者会見も行なわれるほど期待されました。きっと今成も誇らしかったはずです。映画の中で自分を投影した人間が、期待の新人として“本物の”プロレスラーになったんですから。しかし冨永は、大きな活躍を見せることなく、ケガもあって退団...。

「ガクセイプロレスラー」が冨永の人生を変えてしまった。あの映画がなければ、親友が挫折することもなかったのか。悩む今成。互いに深く関わった青春の物語は、ここでいったんストップします。

物語が再び動き出したきっかけ。それがガンプロでした。旗揚げ戦を前に、仲間を必要としていたガンプロに参戦表明した冨永。就職して社会人生活を送りながら、それでもプロレスが好きでたまらなかった。かつて中途半端にやめた場所に、いてもたってもいられず戻ってきた。

旗揚げイヤーの最終戦となる12.26新木場1stリング大会。大家vs浪口など、これまでの集大成となるカードが多く組まれたこの大会で、今成vs冨永も行なわれることになりました。11月の市ヶ谷大会、試合終了後に恒例となっている「集会」で対戦を大家に認められた今成は、冨永に向かってこんなふうに叫んでいます。
「冨永!俺たちの青春、また走り出すんだよ!」

...まあ冷静に言っちゃうと、これは映像スタッフvs元若手レスラーの闘いでしかないわけです。舞台はインディー団体。ほとんどの人にとっては「知らんがな」って話でしょう。無名の若者の挫折まみれの青春が走り出したからどうだっていうのか。

でも、何か惹かれるんですね。「知らんがな」どころか、2人の物語をずっと前からよく知っているような気がする。

なぜか。僕は無名で挫折まみれの青春を何度も見てきたからです。映画やマンガで。何者でもない、何も持たない人間が、どうにかして一発かまそうとする。なんとか居場所を見出そうとする。あるいは、鬱屈の果てに暴発する。そんな姿を描いた名作がたくさんあるんですね。

「SRサイタマノラッパー」、「レスラー」。「桐島、部活やめるってよ」にもそういう要素がある。「ロッキー」だって最初はそんな映画だった。マンガでいうと、僕が好きなのは古泉智浩福満しげゆき。音楽でもありますね、初期のエレファントカシマシとか。

それと同じことを、ガンプロはプロレスを舞台にしてやってるんじゃないかな、と。プロレスをアメコミヒーロー映画にたとえるなら、新日本がバットマンアベンジャーズ的大作。ガンプロは「キックアス」。小規模な話で、笑えて燃えて、泣けてくる。

え〜っとですね。ここでいろんな映画や漫画家さんの名前を出したんですが、あえて個々に関しての細かい説明はしません。みなさん知ってるでしょ。つうかね、「サイタマノラッパー」や「キックアス」やエレカシが好きな人に見てほしいんですよ、ガンプロを。プロレス団体だったら、まずはプロレスファンの間で広まるのがいいのかもしれないけど、ガンプロはそこに収まらないものがある。

世の中には、いろんな娯楽ジャンルがあります。映画、音楽、マンガ、小説、ゲーム。で、これが“縦”のジャンル分けだとすると、“横”のジャンル分けもある。“恋愛もの”とか“戦争もの”とか“格闘もの”とか、映画にもマンガにも小説にもありますよね。で、この“横”のジャンル分けを細かくしていく中に“ルーザーもの”ってのがあると思うんですよ。負け犬ものというか。もっといいネーミングがすでにあるのかもしれない。ラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル(通称タマフル)」では“負け犬たちのワンスアゲイン”と言ったりもしてます。

ガンプロは“縦”のジャンル分けだとプロレスですが、“横”のジャンル分けだとルーザーもの。「サイタマノラッパー」と同ジャンル。だから、プロレス団体としては週プロや東スポに載るのがいいんでしょうけど、僕の感覚だと“ルーザーものの新たな注目作としてタマフルで特集してほしいくらいのエンターテインメント”でもあるんですね。ちなみに番組を立ち上げたプロデューサー・橋本吉史氏も元・学生プロレスラー。アントーニオ本多のライバルだったそうです。いや〜、つながってきちゃうんですねこれが。

※ちなみにガンプロの流れがよく分かる公開記者会見、チケット即売会の模様はDDT公式動画がYouTubeにたくさんアップされてますんで、「ガンバレ☆プロレス」で検索してお楽しみください。ま、僕が長々書くより動画見たら一発なんですけどね。

大家健ツイッター
@1600sekigahara

今成夢人ツイッター
@yumehitoimanari

DDT公式サイト・12.26ガンプロ新木場大会情報
http://www.ddtpro.com/ganpro/5690/