『ハート・ロッカー』

久しぶりに映画のことでも書いてみようかと思います。キャスリン・ビグローの最新作『ハート・ロッカー』。

イラク戦争の爆発物処理班の話なんですが、もう緊張感がハンパじゃないです。爆弾を処理する際のディテールをキッチリ描いてるし、なおかつ処理に成功した時だけじゃなく、爆破が起きてしまった時の描写がまた細かい。あ、それと細かいだけじゃなく、あまりにも唐突かつあっけない爆破シーンも緊張感を増すわけですね。

まあ爆破モノっつうと、「ここで爆破はしないでしょ」とか予測しながら見ることになる傾向もありますね。「こんな中盤で主人公が死ぬわけないんだから」みたいな感じで。しかしこの映画では、冒頭のシークエンスでそれが否定される。なおかつ処理班のメンバー3人を途中まで並列で描くから「もしかしたら……」と思わされる。

もう一つ「そういうことなんだよ!」って思ったのは、この映画が「戦場で行われた犯罪」をテーマにしてるわけじゃないってこと。たとえば『プラトーン』だったら民間人の虐殺とか、『リダクテッド』だとレイプ事件とか、そういうのが中心になるじゃないですか。そういうの見て、僕は「犯罪が起きたからダメなんじゃなくて、戦争そのものが常軌を逸した行為なんじゃないの?」と思ってたわけです。まあ、「人を異常な行動に駆り立ててしまうくらい、戦場は過酷な場所なんだ」ってことなのかもしれないけど、それならもっとストレートにやればいいのに、とも思うわけですよ。あと『プライベート・ライアン』やなんかにしても、戦場で起きた特殊な事例をテーマにして、まあドラマ性を高めてたところがある。

でも『ハート・ロッカー』には、そういう特殊な事例が出てこないんですね。イラク戦争で起こりうること、どの爆発物処理班でも体験しうるであろうことしか描いていない。主人公だけが特別じゃないわけです。いや、実際にはそういう場面もあるんですけど、それがもんの凄い肩透かしに終わる。つまり、この映画が描いているのは(まあ爆発物処理ってのがそもそも特殊な任務だってのはあるかもしれないけど)戦場そのもの、戦争そのものなんですね。戦争が持つ本質的、普遍的に持つ恐怖や狂気を描いている。なんにも特別なことはなくて、だからこそ素晴らしい。で、蛇足ながら付け加えておくと、特別なことが起きないからって映画として退屈だってわけではない。そこが優秀なんですね、この映画。ドラマ性じゃなくディテールの積み重ねで見せる映画というか。

そうやって、まあベタにいうと“戦場の現実”が容赦なく描かれていて、なおかつメソメソしてないんですよこの映画。「兵士たちは戦場でこんなに傷ついた」とか、そういうことを言いたいわけじゃないっていう。ラストなんかもう、とてつもなくクールですから。そのラストに至る主人公の心情は、他の映画だったらもっとクドクド説明するもんだと思います。けど、『ハート・ロッカー』ではそれをしない。かなり抑制が効いている。説明不足に感じる人がいるかもしれないけど、「でも、それまでの描写をちゃんと見てれば分かるでしょ」っていう。まさにクール。

なんかマスコミ試写は毎回超満員だったらしいんですが、オレが見に行った映画館はけっこう空席がありまして。まあ今の日本では売り方が難しいし、ウケない映画なのかもしれないですけど、猛烈にオススメします。

オフィシャルサイトはこちらです↓
http://hurtlocker.jp/